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甲府地方裁判所 昭和24年(行)4号 判決

原告 笹本勝

被告 山梨県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が別紙目録記載の土地につき昭和二十二年七月二日附買收令書を交付してなした買收処分は存在しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

「山梨県東山梨郡奧野田村農地委員会は昭和二十二年三月八日原告所有の別紙目録記載の土地につき、右土地を自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当する不在地主の小作地であるとして、買收計画を樹立し、同年三月九日より三月十八日迄の間これを公告の上縱覽に供した。そして被告山梨県知事は右買收計画に基き原告に対して昭和二十二年七月二日附買收令書を交付して右土地の買收処分を行つたというのであるが、原告はいまだ被告から右土地について買收令書の交付を受けていない。被告の主張する本件土地についての買收令書が昭和二十二年九月十九日山梨県東山梨郡奧野田村字西広門田百十六番地の原告の実家に送達されたとの被告の主張事実は否認する。尤も原告は昭和二十四年六月二十三日及び昭和二十五年三月二十八日の口頭弁論期日において、原告が昭和二十三年十二月八日右奧野田村字西広門田百十六番地において右買收令書の交付を受けたことを認めたが、右目的は眞実に反し且つ錯誤に基くものであるから取り消す。仮に右奧野田村字西広門田百十六番地の実家に買收令書が送達されたとしても、原告は昭和十七年頃より昭和二十三年三月頃迄東京都南多摩郡浅川町に居住していたのであるから、被告が原告に対し奧野田村の区域内に住所を有しない不在地主としてのその所有農地を買收しておきながら奧野田村の実家に買收令書を送達したのは不適法であつて、買收令書の交付はなかつたものといわざるを得ない。よつて被告が右土地につき、原告に対し前記被告主張のような買收令書を交付してなした買收処分は存在しないことの確認を求めるため本訴に及んだのである。なお被告のなした買收処分の存在しないことの確認を求める訴は行政事件訴訟特例法第一条にいわゆる公法上の権利関係に関する訴訟であるが、原告は右処分の適法になされたか否かを爭うものであり、結局行政処分の適否を訴訟物としているのであるから、同法第三条において行政処分の取消訴訟については処分をした行政廳を被告とすべきことを定めている趣旨に鑑み、本件のような行政処分不存在確認の訴についても当該処分廳を被告とすることは許されるものである。」(立証省略)と述べた。

被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、「原告の主張する事実中、奧野田村農地委員会が原告所有の別紙目録記載の土地につき原告主張のような理由で買收計画を樹立し、これを原告主張のように公告縱覽に供したこと、原告昭和十七年頃より昭和二十三年三月頃迄東京都南多摩郡浅川町に居住していたことは認めるが、その他の事実は否認する。被告は昭和二十二年九月十九日右土地に対する同年七月二日附原告宛の買收令書を山梨県東山梨郡奧野田村字西広門田百十六番地の原告の実家(留守宅)に送達したものである。原告が右送達の事実について自白を取り消したのには異議がある。而うして右奧野田村字西広門田の居宅は原告の実家であり、原告の祖母、姉等が居住し、原告の父笹本正義の支配範囲に属する場所であり原告は父正義と同一世帶員として生計を共にしていたのであつて、原告は父正義から独立した生活関係をもつて居らなかつたものであるから、かかる場合原告に対する買收令書の交付として父正義の支配範囲に属する右奧野田村の実家にこれを送達したのは適法である。」と述べた。(立証省略)

当裁判所は戰災により原告本人の尋問を行つた。

三、理  由

先ず被告山梨県知事のなした農地買收処分の不存在確認の訴について、被告山梨県知事が正当な被告となり得るかどうかについて考えて見る。右行政処分不存在確認の訴は行政事件訴訟特例法第一条にいわゆる公法上の権利関係に関する訴訟に当るものであるこというまでもないが、原告は本件訴訟において右処分の結果たる法律関係の存否を爭うというより、寧ろ当該処分が適法になされなかつたことを攻撃し右処分の存在しないことの確認を求め、結局処分自体の適否を訴訟物としているものとも解せられるところであるから、かかる訴訟は右特例法第一条にいう行政処分の取消変更の訴訟と共通の性格を有するというべきであつて、同法第三条で取消変更訴訟について行政廳に当事者能力を認めた趣旨を考えれば、本件のような行政処分不存在確認の訴訟についても右法条を類推して当該処分廳を被告とすることができるものとするのが相当である。よつて買收令書交付により原告所有の農地買收処分をなした山梨県知事を被告とした本件訴訟は正当な被告たるの要件において欠けるところはないものというべきである。

さて、山梨県東山梨郡奧野田村農地委員会が昭和二十二年三月八日原告所有の別紙目録記載の土地につき、右土地を自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当する不在地主の小作地であるとして買收計画を樹立し、同三月九日より三月十八日迄の間これを公告縱覽に供したこと、被告山梨県知事が右土地に対する被告宛買收令書をその日時の点については爭があるが、結局奧野田村字西広門田百十六番地の原告の実家に送達したことは当事者間に爭がない。(原告は昭和二十四年六月二十三日及び昭和二十五年三月二十八日の口頭弁論期日において原告が昭和二十三年十二月八日奧野田村西広門田の原告の実家において買收令書の送達を受けたことを認め、その後昭和二十五年九月五日の口頭弁論期日において、右自白は眞実に反し且つ錯誤に出たものであるとして取り消したが、証人笹本正義、笹本きよ、笹本季子の証言及び原告本人尋問の結果中右奧野田村の実家に買收令書が送達されたことはない旨の供述部分は証人三科芳志の証言によりその成立を認める乙第十二号証の一、二及び同証人の証言に照して信用できず、その他原告の全立証を以つてしても自白が眞実に反し且つ錯誤に出たことを認めるに足らないので、右自白の取消は許容し得ない。)而うして右乙第十二号証の一、二及び証人三科芳志の証言によれば、本件買收令書が右奧野田村字西広門田百十六番地の原告の実家に送達されたのは昭和二十二年九月十九日であることが認められる。

原告は当時右奧野田村字西広門田百十六番地に住所を有しないのであるから、被告が原告を奧野田村の区域内に住所を有しないものとしてその所有農地を買收しながら、買收令書を右奧野田村字西広門田百十六番地に送達しても買收令書を原告に交付したものということできないと主張するので考えてみるのに、自作農創設特別措置法第三条にいわゆる住所とは民法第二十条にいう生活の本拠と同じく、しかも小作地の保有を制限する右措置法の趣旨からして同法第三条の適用について住所は一箇所に限るものと解するのが相当であるが、右法条の適用に関して原告が奧野田村の区域内に住所を有しないものとして扱われたからといつて、その他の社会関係を通じてあらゆる場合に住所を一箇所に限り一律の取扱をしなければならないというのは、社会生活の実体に疎い形式に捉われた見解であると云わなくてはならない。而うして買收令書の送達が通常被交付者の住所になさるべきものであることは当然であるが、もともと買收令書の交付によつてなされる知事の買收処分は、適法に作成された買收令書をその処分の相手方が取得し得べき範囲におき、これによつて相手方が欲すればその処分の内容を知ることができる状態を作爲することによつて成立するものであつて、この趣旨をおしすすめて考えれば、要するに、買收令書の送達というのも、買收令書を、被交付者が欲しさえすれば、それほどの手数を要せずにこれを手中に收め、且つその処分の内容を了知し得べき場所に到達させれば足ると解せられるから、必ずしも彼交付者の住所に限らず、右に述べたような買收令書入手及びその内容了知の可能性の点において、住所に準じて考えられる場所に送達がなされた場合でも、買收令書の交付として適法になされたものというべきである。ところで原告が昭和十七年頃より昭和二十三年三月頃迄東京都南多摩郡浅川町に居住していたことは当事者間に爭なく、成立に爭のない乙第一乃至第四号証、第九、第十号証、原告本人尋問の結果によりその成立を認める乙第八号証、証人笹本正義、笹本きよ、笹本季子の各証言の一部及び原告本人尋問の結果を併せ考えれば、原告の父笹本正義は税務官吏としての勤務の関係上長く郷里の奧野田村を離れて暮し、昭和十七年頃からは東京都南摩郡浅川町に寄留居住するようになつたが、原告も家族の一員として母、弟妹と共に終始父と世帶を同じくして生活していたもので、奧野田村所在の前記実家には原告の祖父母や姉、姪等が居住してその留守を守つていたが、昭和二十年六月に祖父が死亡して後は正義が繁く奧野田村の実家と間を往來して実家をも治めて來たこと、尤も公簿面上正義は昭和二十一年三月十四日浅川町から奧野田村に転入したことになつているが、実事は依然浅川町に居住して実家との間を往來していたものであつて、昭和二十三年三月頃に原告が、同年四月頃に原告の母季子が奧野田村へ帰り住むようになつたこと、又本件土地は原告の所有名義になつているが、原告は買收処分のなされたという後になつて始めて右土地が原告の所有であることを父より聞き知つたもので、前記本件買收計画の縱覽期間中にも、父正義において同人及び笹本勝の名義で奧野田村農地委員会に対し異議の申立をして却下され、更に訴願を行つていることが認められ、かかる事実関係からすれば、奧野田村字西広門田百十六番地の原告の実家は原告の父であり、且つ本件農地の所有関係について、原告に代理して一切を処理する権限があつたものと認められる正義の支配に属する場所であつて、しかも原告は正義の世帶員として独立の居住関係はなかつたのであることが認定され、ことに前記乙第八号証(正義の作成した買收計画に対する異議申立書)に、申立人を笹本正義、笹本勝としてその肩書に奧野田村百十六番地と記載してある一事を以てしても、本件買收令書の送達に関して奧野田村の実家は上に述べたような意味において、原告の住所に準ずるものと見て差支えなく、同所に対する買收令書の送達は原告に対する適法な買收令書の交付であると認めるのが相当である。

果してそうであるとすれば、本件土地につき被告より原告に対する買收令書の交付がなかつたとの原告の主張は理由がないものというべく、被告のなした本件買收処分の存在しないことの確認を求める原告の請求は失当であつて、棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 入山実 石田実 宮沢邦夫)

(目録省略)

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